『グハンダンサンブル』

フランスの写真家ローラン・クローネンタルは、1950-1980年代に建てられたパリ近郊の大規模公営団地に住む高齢者の生活を記録し続けています。
彼の作品名は「Souvenir d’un Futur(未来の記憶)」。

http://laurentkronental.com

被写体である巨大な団地は「グハンダンサンブル(grand ensemble)」と呼ばれ、戦後のフランスが深刻な住宅不足に対応するために、ユートピアを夢想して生み出されたものです。
ですが、建設から60年も経った今ではかなり老朽化が進んでいて、その多くがすでに取り壊されており、順次、さらに多くの建物が取り壊されつつあるそうです。

クローネンタルはいつしかこの巨大なレゴのような形状の魅力に引寄せられていました。
この建築群が、過去と未来の間でさまよっているような感じがしたのだそうです。
2011年から写真を撮り始め、季節ごとにこの場所を訪れ、変化する光の中でこの建築群を撮影し続けています。

また彼は、建物だけでなくここに住む年配の人々も撮影しています。
グランド・アンサンブルにはさまざまな世代の人々が暮らしていますが、建設当初から住んでいる年配の方が多く、そういった住人たちだけが発する、どこか魅力的な雰囲気を彼は追い求めているのだそうです。
写真は、過去と未来の混在するパラレルワールドのような印象で、SF映画のようなフィクショナルな雰囲気さえ感じます。

結局のところ、この「グランド・アンサンブル」はかつて夢見た理想郷にはなっていないようです。
住宅の供給が落ち着いて、徐々に空き室が増え、貧困や犯罪の温床になってしまったからです。
今ではゴーストタウン寸前のような不気味さを醸し出していますが、逆にそれが妙な美しさを放っているのでしょうね。

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