ここ最近頻繁に中国の写真家レン・ハンの作品を目にするのは、ひとつは写真美術館として有名なストックホルムにあるフォトグラフィスカでの大規模な個展が今年の2月17日から始まっていたから。
そしてもうひとつはそのフォトグラフィスカでの個展開始八日目にレン・ハン自ら命を絶ってしまったからでしょう。
詩人でもあるレン・ハンのホームページには2007年から書き溜められている詩と、2008年からの写真とともにレン・ハンの突然の死に戸惑い且つ彼と彼の作品にリスペクトしながら、今後について一旦立ち止まり、すべてのプロジェクトを一時停止するという友人と家族からのメッセージが英語、中国語で綴られています。
ほとんどの作品が男女の裸体が被写体である彼の写真には、ヌードでの表現方法がまだどれだけ限りなくあるのかということに気づかせ、時には体の一部を使って幾何学模様やグラフィックを思い起こさせるようなユーモアな作品から、テリー・リチャードソン顔負けなエロス全開な写真もあれば、ハッと息を呑むような美しい裸体の写真までと、撮りたいものを撮りたいだけ撮るという飽くことがない静かで激しいエネルギー突きつけられている感じがします。
今はきっと写真集入手も困難な時期かもしれません。すぐにストックホルムのフォトグラフィスカの展示を見に行くのはもっと難しい。
でもレン・ハンのHPでいくらでも彼の素晴らしい作品を見ることができます。
こんな素晴らしい写真を残してくれたレンハンをおもいながらクリックできます。
年: 2017年
日本公開、ロバート・フランクのドキュメンタリー映画
こちらで以前にロバート・フランクのドキュメンタリー映画に触れたことがありますが、振り返ってみると昨年2016年の10月に記したものでした。
さて日本でも待ちに待った公開が決定。
アメリカでは2015年の10月のニューヨークフィルムフェスティバルで公開されたのを皮切りに、全米ではもちろん、ヨーロッパ、アジアでの多数のフィルムフェスティバルで上映され、2017年の3月でも映画の公式ホームページではアメリカ内での上映スケジュールを発表しています。
監督はロバート・フランクの映像作品の編集も携わってきたローラ・イスラエル監督。サウンドトラックにはトム・ウエイツ、ボブ・ディラン、ヨ・ラ・テンゴそしてローリングストーンズなどなどと、作家やミュージシャンにも数々の影響を与えてきたフランクだからこその楽曲になっています。
インタビュー嫌いのロバート・フランクが、友人ローラ・イスラエル監督の前で見せた姿、彼の生活、そして彼の言葉を放つロバート・フランクが観れる貴重な資料とも言えるドキュメンタリー映画でしょう。
『何かが起きた風景写真』
フォトグラファーのスティーヴン・チャウが世界の都市をまわって収めた風景写真は一見ありふれた街の風景です。
チャウはかつて新聞紙のカメラマンをしていたせいか、ニュースが大好きです。
この作品はそんな「ローカルニュース」が報じられた平凡な場所を映しています。
http://www.stefenchow.com/
チャウは地方紙を読み漁って、目立たないけれども興味を引くストーリーをひたすら
探しました。彼が住む北京に始まり、世界の7都市の新聞をチェックし、そして24mmと45mmのティルトシフトレンズを装着したニコン「D800E」でその場所を撮影しました。
写真は美しく、柔らかで、もやがかかったような色をしています。
鑑賞者は作品につけられたキャプションを読んで初めて、チャウがその場所を映した
意味を知ります。
興味深いことに、各都市で報じられるニュースの内容はそれぞれに特色があるようです。
ロサンゼルスやニューヨークのようなアメリカの都市では、暴力的でおぞましいものになる傾向があるそうです。
また、パリやロンドンでは、些細な犯罪や交通事故、抗議行動が好まれるそうです。
そして日本では、地下鉄で女性の遺体が入ったスーツケースが発見されたというような異様なストーリーが好まれるとのこと。
そうした「事件」があった場所で、普通の状態の写真を撮ることで、過剰なニュース摂取が当たり前になった情報社会に皮肉る作品になっているのですね。
『500年前の自画像=現代の自撮り!?』
「自画像」は14世紀に鏡が発明されたことで生まれたそうです。
現代人は自画像というより、スマホを使って行う「自撮り」をします。
時代は違いますがどちらも自身を対象に写す行為です。
ある研究論文によると、2つは同じモチヴェーションで行なわれているということなんです。
1433年、新しい絵画のジャンル「自画像」を生み出したのは、「受胎告知」などの作品で有名な画家ヤン・ファン・エイクでした。
古い時代の鏡は金属を使ったものでしたが、14世紀の技術者たちは、スズと水銀の合金でガラスをコーティングし、世界で初めて高品質の鏡をつくり出したそうです。
その後ルネッサンス時代が訪れると、自画像は画家の間でブームになりました。
19~20世紀になると、ゴッホ等に代表されるように、シュルレアリスムで抽象的な自画像を描いて激しい感情を表現するようになりました。
そしてこうした作品は、ある意味で現在流行している「自撮り」の先駆けだったという、ドイツの認知科学者の研究があるのです。
自撮りは自画像の一部として技術的進歩から生まれたものであり、「自分が望むような姿に見られたい」という昔から変わることのない人間の欲求から生まれた行動であるという論文を発表されています。
初期の自画像では、上流社会の一員でなければ身につけられなかった毛皮の襟など、当時の富の象徴とされるようなものが描かれています。
そのように昔から自画像は、自身の複雑な感情をひとつの画像にあらわすために「盛られている」のだそうです。
スマホ上で写真を修正するように、500年前にルネッサンスの画家たちも鏡を覗き込み、そこに映っている以上のものを描こうとしたんですね。
ゴールデンウイークの表参道
大人気若手写真家の代表ともいえる奥山由之さんの写真展がゴールデンウイーク期間中に表参道ヒルズのスペース オーにて開催されます。
CDジャケット、広告のみならず、ファッション雑誌でちょっとクレジットに注意してみるだけで撮影が奥山さんによるものだというものが今や頻繁に見られます。
写ルンですで撮影されるスタイルも有名ですし、フィルム撮影ゆえの色合いが奥山さんスタイルとして定着していますね。
今回の写真展では雑誌「EYESCREAM」にて連載の「君の住む街」での全てポラロイドカメラで撮影された35人の女優ポートレートと、この写真展のために撮り下ろした東京の風景写真約25点が展示されるとのことです。
展示内容にも興味がそそられることはもちろん、そして12日間の会期の展示会場が表参道ヒルズのスペース オーというとこにも驚き、さらには総合プロデュースが後藤繁雄さん、デザインが服部一成さんというところで泣く子も黙りそうなほどの豪華体制に写真家への期待度と信頼が伝わります。
しばらく先の写真展のことですが、ゴールデンウイーク、表参道、奥山由之。
見逃せない組み合わせですね。
『グーグルのモザイク認識機能』
このたびグーグルが開発したAIは、ピクセルの粗い低画質の画像から、かなり鮮明な元の写真を再現することができるそうです。
つまり何が写っているかほとんど認識できないような人の顔や部屋を写した、モザイクみたいな画像から、元の画像を推測・再現する人工知能システムを開発したとのことです。
これは防犯などに応用できそうですね。
グーグルのAI開発チームは、今回の研究で有名人の顔写真や寝室の写真を使ってシステムをトレーニングした結果、写真の解像度を上げられるだけでなく、その処理中に「欠けている部分」を埋めることに成功しました。
このシステムでは、2種類のニューラルネットワークを組み合わせて画像を解析しているそうで、たとえば8×8ピクセルの低画質画像から、32×32ピクセルまで解像度を上げることが出来ます。
まずAIは、低解像度画像を任意の高解像度画像と比較することで、そこに写っているのが顔なのか部屋なのかを判断します。
次に、8×8画像に統計的に推測される色のピクセルを追加していきます。
それぞれのニューラルネットワークの処理が終わると、グーグルの研究者たちがその結果を組み合わせて最終画像を生成するそうです。
今後さらに研究が進めば、低解像度の写真や動画に映っているものを全自動で再現できるようなシステムが開発されると思われます。
とくに防犯カメラの不鮮明な映像に映っているものを特定するために、こうした技術が役立つかもしれないですね。
第42回木村伊兵衛写真賞
2016年度の木村伊兵衛写真賞が決まりましたね。
受賞者は原美樹子さんに決定しました。
昨年度の受賞者川島小鳥さんは以前からも注目されていましたが、受賞後独自のスタイルがより高く評価され、ご自身の作品以外にも商業フォトグラファーとしても大人気です。
原美樹子さんの今回の受賞対象作品はThe Gould Collection出版の「Change」。
2015年に急逝した写真集コレクターChristophe Chrison氏への追悼として出版したシリーズで、「Change」はその第1冊目として写真を原美樹子さん、そして小説家のStephen Dixon氏のショートストーリーで構成。
1996年から2009年に撮影された40枚の写真、66ページの「Change」はエディションナンバーが500部というもので、この木村伊兵衛写真賞受賞後に入手困難になりそうな予感が。
The Gould CollectionのHPから「Change」の写真からも見れるように、なんとも不思議な平衡感覚といいますか、被写体との距離感とフォーカスの独特な感じで原美樹子の世界に引き込まれていくかのような感覚を味わいます。
それは原さんの撮影スタイルがノーファインダーというファインダーを覗かないで撮影する技法を用いているからなんですね。
貴重なエディションナンバーの写真集が手に入らなくても、大丈夫。受賞作品展が4月11日から新宿ニコンサロンで、そして5月4日から大阪ニコンサロンで開催されます。
じっくり観てみたいですね。
『写真のミニチュア化』
アメリカ同時多発テロやジョン・F・ケネディ暗殺など、世界中の誰もが知っているシーンをとらえた写真を、精密なミニチュアで再現するという、ユニークなプロジェクトがスイス出身の2人組アーティストによって行なわれています。
http://www.ohnetitel.ch
プロジェクトはまず人々の意識に最も深く焼きついている写真を集めることから始まりました。
ヒンデンブルク号爆発事故、世界貿易センターを攻撃したアメリカ同時多発テロ事件、タイタニック号など。
そして2人は段ボールやプラスティック等を使い、それぞれのシーンをミニチュアで丹念に再現していきます。
これはとても時間がかかる作業で、数日を要する作品もあれば数週間かかるものもあるそうです。
彼らはこれらの作品を「Iconen」と呼んでいます。
どの写真も、写真家や一般の鑑賞者が見ればそれが何のシーンかすぐに分かります。
ミニチュア模型を撮影し、最終的な作品が出来上がります。
本物ではなく「模型」であることを気付かせるためでしょうか、写真には粘着テープやグルーガンなど、時にはスタジオの一部や使用した素材が写り込んでしまっています。
この作品は自分達が楽しむために継続されています。
2人は天安門広場のシーンをつくるために、戦車の模型を7つ購入し、1週間かけて組み立てたましたが、すぐに限界を感じ、「楽しくなくなり」、製作作業を止めたそうです。
7台中3台の戦車は、撮影後の編集で複製されました。
最新の作品はジョン・F・ケネディ大統領の暗殺を再現した写真。
人のミニチュアをつくるのは難しいそうです。
この象徴的な写真はピントが合っておらず、細部の作り込みの荒さがごまかされています。
でも、3Dプリンターもあるこの時代、あえて手作業でつくられたミニチュアは遊び心に満ち溢れていてユニークです。
ソール・ライター展
以前にソール・ライターについてお話ししたのは日本では2015年に公開されたドキュメンタリー映画についてでした。
1950年代から第一線でファッションフォトグラファーとして活躍していた写真家が世間から姿を消して、自らの制作活動のためにその後を捧げた彼の作品は、物を見る視点から、目の前の光景をカメラで捉える構図まで斬新で新鮮な独自なもので、2006年にドイツのシュタイデル社から出版された作品集で一気に注目を浴びました。彼のスタイルが改めて世界から評価されたのが83歳。
2012年にドキュメンタリー映画「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」が撮影され、2013年に90歳手前で旅立ちました。
それから時を置いて、4月の29日から日本では初となるソール・ライターの回顧展が開催されます。
ニューヨークのソール・ライター財団の全面的な協力のもと、財団所有のモノクロ、カラー写真の他に絵画作品や資料が公開されるそうです。
鮮やかな色彩、大胆で綿密な構図。見た瞬間にはっとさせられる彼の作品に惹かれたら、ぜひ足を運びたい貴重な展覧会です。
期日は4月29日から6月25日、場所はBunkamura ザ・ミュージアムです。
ちなみに同ミュージアムで4月15日まで開催されている展覧会は、昨年日本画の素晴らしさを改めて知らしめた若冲ブームを経て浮世絵師、日本画家の河鍋暁斎の展覧会が催されています。
Bunkamura ならではの企画力が素晴らしいですよね。
『シンプルライト』
クラウドファンディング・サイト「Kickstarter」に登場したLEDランプが、目標をはるかに超える39万ユーロ(4,680万円)近くを集め話題になっています。
たいていの照明は、「スイッチをオンにする」か「つまみを回す」かで点灯しますが、このLEDランプ「Heng Balance Lamp」の点灯方法は少し変わっています。
ランプの構造はとてもシンプルで、木製のフレームと、そこに埋め込まれた細長いライトがあり、ボール2個がそれぞれ紐で枠にくっついています。
木枠に置いてある下のボールを持ち上げて、ぶらさがっている上のボールに近づけるとライトがつく仕組みだ。
昔の電灯は紐を引っ張って点灯したものですが、このランプの場合、紐を持ち上げて点灯します。
2個のボールが近づくと、ボール内部の磁石が引き合い、下のボールは宙に浮いたままとなる。
つまり電気をつけると2個のボールが宙に浮いて、ボールを離すと消えます。
このランプをデザインしたのは中国人デザイナーのリー・ザン・ウェン氏。
使用素材は木と磁石のみ。
曲線を描いた木製のフレーム内にセンサーが隠されているわけではなく、人間の手でなくては点灯できないというシンプルさは、現代ではかえって珍しく斬新なのでしょうね。
Kickstarterで、44ユーロ(約5,280円)を支援すると購入できますが、目標1万ユーロのところ、すでに39万ユーロ(4,680万円)近く購入希望者がいるようです。バカ売れですね。